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2011年1月11日に発表されたアウディA1。2リットルNAエンジンに匹敵するトルクを発生する1.4TFSI(直噴ターボエンジン)と7速Sトロニックをコンパクトボディに凝縮したパッケージングは、普段の足としてはもちろんのこと、タイトコーナーを俊敏に駆け抜けるコンパクトスポーツハッチとしても注目が集まる。ZEROSUNでは、納車されたばかりのアウディA1・スポーツパッケージをセントラルサーキットに持ち込み、速攻インプレッションを敢行。GTドライバー・田中哲也選手の「レーサー目線」で、アウディA1のスポーツ度とチューニングベース車両としての素質をチェックした。
今までいろんなアウディに乗ってきましたが、今回試乗したA1は、いい意味でスポーツカー特有の固さがなく、しっとりした乗り味が印象的です。たとえば、縁石などの凹凸を超えたとき「ドンッと突き上げるのではなくフニャッ」と乗り越えてくれます。それでいてロール量が多いわけでもなく、いい言い方をすれば「しなやか」な味付けです。アウディの場合、4WDやFFといった駆動方式を問わず、そのハンドリングはどの車種に乗っても弱アンダーぎみにセッティングされており、悪い言い方をすれば「研ぎすまされたシャープさはない」といえますが、これもスピードレンジの高い欧州で培われた個性だと思います。A1は、ローエンドモデルですが、RS5やRS4にも共通するアウディらしさを十二分に体感できるクルマです。内装の質感や装備にも高級感があり、エントリーモデルから連想するチープな質感はまったく感じさせません。
セントラルサーキットは、FSWや鈴鹿サーキットのような本格コースとは異なり、ワインディング感覚で走りをチェックできる絶好のステージです。今回、ストリート+αのスピードレンジから限界走行まで試してみましたが、先ほどもお伝えしたとおり、全体的な印象はとてもマイルドでコーナー進入時にアンダーステア指向の挙動を示します。スポーツカーを乗り継いできた人の中には物足りなさを感じるかも知れませんが、ナンバー付きのエントリーモデルとして安全性を考慮すれば当然のことです。テスト車両は「スポーツパッケージ」ですので、専用スポーツサスペンションと16インチタイヤ&ホイールが付いています。実際にセントラルサーキットを走行すると、エンジンパワー、サスペンション、タイヤグリップがバランスされており、走る・曲がる・止まるの基本性能を安全に楽しむことができました。大径ホイール装着車にみられる細かな凹凸でタイヤ&ホイールがバタつくこともありません。仮に、スポーツ走行を想定してハイグリップタイヤに交換するとエンジンの非力さが強調されますし、4輪をベタッとグリップさせてリヤの挙動を制限してしまってもクルマを操る楽しさが薄れます。そう考えると、アウディが導き出したバランスは誰もが安全にスポーツ走行を楽しむことができる一つの方向性なのかも知れません。しかし、自分がA1オーナーになり走りを重視するのなら、チューニングによって自分好みのクルマに仕上げていくのもアリだと思います。
アウディA1には、ESP(エレクトロニック・スタビリゼーション・プログラム)が標準装備されており、電子制御式LSD機能(疑似LSD効果)を体感することができます。その仕組みは、コーナリング中にアクセルを踏み込み内輪が空転すると自動的に内輪だけにブレーキが掛かりトラクション抜けを防いでくれるというものです。ESPのONとOFFの違いを試してみたところ、明確な違いが現れました。OFFの場合、コーナー進入時はスパッと入れるのですが、クリッピングから先でアクセルを入れていくと内輪が空転しクルマが外にはらもうとします。狙ったラインをトレースするにはアクセルコントロールが不可欠です。一方、ONにするとコーナー進入は、ちょっとアンダーが出て曲がりずらくなりますが、そこから先はアクセルを踏んでいってもアクセル全開で狙ったラインを立ち上がることができます。S字区間も、OFFだとアクセル操作が必要ですが、ONの状態ではアクセルを踏みっぱなしで走行できます。気になるフィーリングは、一般的にブレーキによる制御が入るとギクシャクするものですが、A1に搭載されたESPは軽くブレーキが引きずる印象なので、ステアリングやブレーキペダルに大きな違和感を感じることはありません。ただし、スポーツ走行寄りの目線になると、タイヤの空転を抑えつつアクセルとステアリングを修正しながら狙ったラインをトレースするのも醍醐味のひとつです。タイムについても、ESPをONにするとブレーキが作動する以上、パワーロスは避けられません。実際にOFFの状態に比べてラップタイムが遅くなる結果がでました。