Vol.1

アウディ A1 サーキットファーストインプレッション

DATA
日時:2011年2月3日
場所:セントラルサーキット(兵庫県)
天候:晴れ(気温10℃)
路面状態:ドライ

2011年1月11日に発表されたアウディA1。2リットルNAエンジンに匹敵するトルクを発生する1.4TFSI(直噴ターボエンジン)と7速Sトロニックをコンパクトボディに凝縮したパッケージングは、普段の足としてはもちろんのこと、タイトコーナーを俊敏に駆け抜けるコンパクトスポーツハッチとしても注目が集まる。ZEROSUNでは、納車されたばかりのアウディA1・スポーツパッケージをセントラルサーキットに持ち込み、速攻インプレッションを敢行。GTドライバー・田中哲也選手の「レーサー目線」で、アウディA1のスポーツ度とチューニングベース車両としての素質をチェックした。


●アウディA1に乗った走りの第一印象は?



今までいろんなアウディに乗ってきましたが、今回試乗したA1は、いい意味でスポーツカー特有の固さがなく、しっとりした乗り味が印象的です。たとえば、縁石などの凹凸を超えたとき「ドンッと突き上げるのではなくフニャッ」と乗り越えてくれます。それでいてロール量が多いわけでもなく、いい言い方をすれば「しなやか」な味付けです。アウディの場合、4WDやFFといった駆動方式を問わず、そのハンドリングはどの車種に乗っても弱アンダーぎみにセッティングされており、悪い言い方をすれば「研ぎすまされたシャープさはない」といえますが、これもスピードレンジの高い欧州で培われた個性だと思います。A1は、ローエンドモデルですが、RS5やRS4にも共通するアウディらしさを十二分に体感できるクルマです。内装の質感や装備にも高級感があり、エントリーモデルから連想するチープな質感はまったく感じさせません。



●サーキット走行を行った印象は?



セントラルサーキットは、FSWや鈴鹿サーキットのような本格コースとは異なり、ワインディング感覚で走りをチェックできる絶好のステージです。今回、ストリート+αのスピードレンジから限界走行まで試してみましたが、先ほどもお伝えしたとおり、全体的な印象はとてもマイルドでコーナー進入時にアンダーステア指向の挙動を示します。スポーツカーを乗り継いできた人の中には物足りなさを感じるかも知れませんが、ナンバー付きのエントリーモデルとして安全性を考慮すれば当然のことです。テスト車両は「スポーツパッケージ」ですので、専用スポーツサスペンションと16インチタイヤ&ホイールが付いています。実際にセントラルサーキットを走行すると、エンジンパワー、サスペンション、タイヤグリップがバランスされており、走る・曲がる・止まるの基本性能を安全に楽しむことができました。大径ホイール装着車にみられる細かな凹凸でタイヤ&ホイールがバタつくこともありません。仮に、スポーツ走行を想定してハイグリップタイヤに交換するとエンジンの非力さが強調されますし、4輪をベタッとグリップさせてリヤの挙動を制限してしまってもクルマを操る楽しさが薄れます。そう考えると、アウディが導き出したバランスは誰もが安全にスポーツ走行を楽しむことができる一つの方向性なのかも知れません。しかし、自分がA1オーナーになり走りを重視するのなら、チューニングによって自分好みのクルマに仕上げていくのもアリだと思います。



●ESP(電子制御式LSD機能)のフィーリングは?



アウディA1には、ESP(エレクトロニック・スタビリゼーション・プログラム)が標準装備されており、電子制御式LSD機能(疑似LSD効果)を体感することができます。その仕組みは、コーナリング中にアクセルを踏み込み内輪が空転すると自動的に内輪だけにブレーキが掛かりトラクション抜けを防いでくれるというものです。ESPのONとOFFの違いを試してみたところ、明確な違いが現れました。OFFの場合、コーナー進入時はスパッと入れるのですが、クリッピングから先でアクセルを入れていくと内輪が空転しクルマが外にはらもうとします。狙ったラインをトレースするにはアクセルコントロールが不可欠です。一方、ONにするとコーナー進入は、ちょっとアンダーが出て曲がりずらくなりますが、そこから先はアクセルを踏んでいってもアクセル全開で狙ったラインを立ち上がることができます。S字区間も、OFFだとアクセル操作が必要ですが、ONの状態ではアクセルを踏みっぱなしで走行できます。気になるフィーリングは、一般的にブレーキによる制御が入るとギクシャクするものですが、A1に搭載されたESPは軽くブレーキが引きずる印象なので、ステアリングやブレーキペダルに大きな違和感を感じることはありません。ただし、スポーツ走行寄りの目線になると、タイヤの空転を抑えつつアクセルとステアリングを修正しながら狙ったラインをトレースするのも醍醐味のひとつです。タイムについても、ESPをONにするとブレーキが作動する以上、パワーロスは避けられません。実際にOFFの状態に比べてラップタイムが遅くなる結果がでました。



●パワステ&ABSのフィーリングは?



エンジンのフリクションロスを極限まで抑えるためパワーステアリングは電動タイプを採用しています。フィーリング的には、軽すぎるとか重すぎることはなく適度な重さです。また、初期の反応性は比較的マイルドだと思います。これはアウディ全車に共通する印象であり、旋回中に舵角を切り足した時でもさらに奥がある感じと表現すれば分かりやすいでしょうか。初期レスポンスのみを追求すると扱いずらくなりますし、実際、FSWの100Rなどではこのようなセッティングを施した方が速く走れることがあります。ステアリングに伝わるインフォメーションは、電動パワステの中ではよい方だと思います。刻々と変化する路面やタイヤグリップの状況を手で感じ取ることができます。その点においては、レーシングカーの方がもっと悪いぐらいです。ABSについては、ABSを完璧に効かすような状態になった時に、少しフニャッとした感覚がありましたが、それはアウディ全車に共通する味付けだと思います。当初、サーキットを10周も走ればプアな感触が現れるのでは?と思っていたのですが、実際のところはフェードの兆候は見られませんでした。ABSが効きすぎることによって制動距離が伸びることもなく、ブレーキについては頼もしさを感じました。



●1.4TFSIエンジン&7速Sトロニックのポテンシャルは?



エンジンの印象は、今回のようなサーキット走行をする場合、最大トルクを発生する領域(1500~4000回転)をほとんど使うことがありませんでした。エンジンの特徴である強力な低回転域トルクの恩恵は、ストリートユースにおけるストップ&ゴーで効果が体感できるはずです。排気量が1.4リットルと小さいことを考慮すれば、同レベルのNAエンジンと比較すれば十分トルクフルです。しかし、エンジンパワーに対してシャシー性能の方が完全に勝っているので、スポーツ走行に重点をおくのなら、エンジンパワーがもう少しあったら、と欲が出てきます。もう少しエンジンが気持ちよくパワフルに回ってくれさえすれば、クルマ全体の印象が大きく変わるはずです。7速Sトロニックは、回転が落ち込むヘアピンコーナーや最終コーナーの立ち上がりでも3000回転以上はキープしてくれます。ただし、上のヘアピンコーナーではシフトが2速に落ちず、3速3000回転は一応キープしているのですが、この状態になると小排気量車特有のかったるさを感じさせます。ストレートでは4速で吹けきる感じで、6200回転付近になると自動的にアップしていきます。



●A1チューニングの方向性



シャシー性能に対するパワー不足を改善し、安定志向のハンドリングをスポーツ走行寄りにシフトすることが、A1チューニングのキモになります。標準車は、旋回中にリヤタイヤが唐突に流れ出てヒヤッとすることもありませんし、意図的にタックインさせて自由自在に振り回すことも困難です。ヨーロッパの交通事情を反映させた安定感のあるフットワークは、アウディらしさといった意味では、ひとつの完成形なのかもしれません。しかし、クルマを振り回わすだけのスキルがあるのなら、若干ピーキーな挙動を示したとしてもシャープな挙動を楽しみたいものです。ESPをONにすると確かに運転は楽になりますが、アクセルコントロールする楽しみまでもがスポイルされてしまうので、電子制御に頼らない状態で煮詰めていきたいですね。また、パワーアップだけを追求しすぎても、コーナーの立ち上がりでトラクションが抜けてしまうだけなので、サスペンションを含めて総合的に煮詰めていくことが重要です。機械式LSDの設定があるのなら、ぜひ入れてみたいです。排気音についても、とても静かなクルマなのでスポーツという意味では物足りなさを感じます。排気音よりタイヤのスキール音やエンジンノイズの方が大きいくらいですから。スポーツマフラーに交換すれば、エンジンの鼓動がよりダイレクトに伝わり、スポーツ走行を楽しめるクルマに変貌するはずです。



●MINIクーパーSと比較すると?



アウディA1の対抗車種になるかもしれないMINIクーパーSと比較すると、排気量が大きい分、クーパーSの方が断然パワフルな印象です。アウディA1ユーザーには申し訳ないですが、ノーマル状態では比べ物にならないレベルです。しかし、A1の場合、シャーシ性能にまだまだ余裕があるので、最大パワーを30~40馬力ほど上積みできれば、クーパーSと対等にバトルできるかも知れません。きっと、すごく面白いクルマに仕上がると思いますよ。そのあたりは、ZEROSUNさんのようなプロショップの技術力に期待しましょう。



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